センターの教育機関的活動
山下 和之
千葉大学総合情報処理センター
〒
263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33TEL
:043-290-3536FAX
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概要
総合情報処理センターの役割としてほとんど顧られることのなかった教育について、千葉大学総合情報処理センターで展開している活動を元に論じる。発表では主に本文の
2で挙げたセミナーについて述べる。
キーワード
教育活動
1.導入
千葉大学総合情報処理センターの現在の専任教員は
4名、橋本講師、山下講師、山賀助手、戸田助手で構成されている。橋本は研究システム開発部門、山下と山賀は情報処理教育部門、戸田はネットワーク開発研究部門の所属である。教員規模の1名から4名への拡大は、情報処理教育の技術的支援とネットワークの整備に関するサービスを主旨として、1994年に学内措置によりなされた。実際、各部門の名称は、センターのサービス機関的意味を強く反映しているものである。このようにサービス主体で形成された組織であるのとは別に、我々は次に示す教育を展開することとなった。その展開は、ネットワークやコンピュータに関してプロフェッショナルな技能を持つ教員の組織であることと、そういった内容を学びたいという学生や社会人が存在することから、そもそも自然な流れであった。
2.学内教育事例
いたるところでネットワークの管理者が求められるようになったが、系統的な知識に基づいて管理のできる人材は現在極めて少ないため、中途半端な知識から管理を行なって、
近年のパソコンブームでは、過剰にネットワーク利用に比重がかけられ、プログラミングへの指向が軽視されている。そのような傾向での今後のソフトウエア開発に関する危惧から、大規模な汎用ソフトウエアの開発に携わることのできる人材を育てる目的で、ソフトウエア開発の標準的手法を実践的に学ばせる内容のセミナーを企画し、「普遍教育」で平成
10年度前期から開講した。期間や受け入れ人数などは上述のセミナーと同様に、週1時限( 90分)、半期(前期・後期計2クラス)で、1クラスにつき10名程度である。半期の内3分の2を輪講に充て、残りをソフトウエア開発実習に充てている。輪講の形式は上と同様に、教員が項目を指示し、それについて学生が調べ発表する。主な項目は、「ネットワーククライアント・サーバ」、「漢字コード」、「著作権」、「ソフトウエア付随ドキュメント」、「デバッグ」、「開発ツール」、「マルチプラットフォーム化」などである。このセミナーの実習で平成10年度前期には、「ジャンケンサーバ・クライアント」、「オンライン通販支援CGI」、「ネットワークメッセージ統一サーバ」、「POP3/IMP4対応メーラ」、「ネットワーク対戦型Warシミュレーションゲーム」、「メッセージアーカイブ・検索サーバ」の開発が行なわれた。山下と山賀が企画・担当している。
これら以外に「普遍教育」の全学必修の情報処理リテラシー教育で橋本と山下が半期の授業を
2
クラスずつ(1クラスの受講生は約100名)担当している。
3.学外対象の教育事例
千葉地域リカレント教育推進事業のコースとして「最先端情報処理の世界」(
千葉大学共同研究推進センター主催千葉大学高度技術研修の「インターネットに触れる楽しさ」に共催した(
1998年10月7日〜10月9日)。これは、民間企業技術者や官公庁職員を対象とした講習会で、3日間の講義・実習でスモールビジネスにインターネットを活用するための初歩から応用までを会得させるものである。センター専任教員では、橋本、戸田が企画・担当した。
「ハイ・パフォーマンス・コンピューティング」というテーマで
1996年、1997年、1998年の夏休みに各5日間終日で開催した。日立S3800/160を用いて、計算機アーキテクチャとFORTRAN数値計算に関する講義・実習を行なった。対象は高校生で、受講者数は15名から20名程度であった。主に山下が企画・担当した。これは、千葉大学主催の「サマースクール」で開かれるコースの一つである。
4.まとめ
ネットワークの運用やソフトウエアの開発がアカデミックな取り扱いを受けていないという事実は、それを本職とするセンター教員の研究面での発展の足場を狭くしているという点で問題である。確かにこれまでは、これらの課題は需要が先行し、体系づける時間的余裕がなかったと言える。しかし、そろそろこれらを体系づけるべき時期が来たのではないだろうか。すでに、ネットワークでもソフトウエアでも必要なものは事実上足りており、むしろ安定性が議論の対象になる場合が多い。上で述べたセミナーは、そのような観点で、ネットワークの運用とソフトウエアの開発についての研究の土壌を形成するという位置づけができる。
千葉大学の総合情報処理センターが専任教員の構成として比較的規模の大きいものであるがゆえ上記のような教育の展開が可能であったとも言えるが、セミナー形式で開く科目では、教員の負担がその授業時間内にほぼおさめられるため、千葉大学に限らず規模に応じて実施可能であろうと考えられる。また、発表項目を指示するだけで、学生による調査が最新の情報まで予想以上に行き届いていたこともあり、センター教員の日々の情報収集に費やす労力を学生に分散させるはたらきもあった。
千葉大学ではセンターを中心に展開する教育はこの数年に始められたものばかりであるが、セミナーは今後も継続を予定しており、他のものも何らかの形で企画していくであろう。コンピュータの普及や初等教育の充実に伴って内容が高度化していくことはあっても、現在より規模を縮小することにはならないと考えられる。一方、コンピュータやネットワークに関して学内で要求されるサービスは、即戦力として期待されるものである。サービス主体で構成された組織は短いタイムスケールで変遷を余儀なくされる。近年のコンピュータ関係での社会の変化は著しく、それに伴って要求の内容は変化する。例えばユーザ個人が所有するパソコンの性能向上によって、大型計算機を不要とするようなサービス要求の変化は将来あり得るものとして覚悟しなければならない。また、ネットワークの管理を外注でできたり、ネットワークが電話網のように安定し、管理に高度な技術を必要としなくなったりすれば、そのサービスをセンターで行なう必然性は問われることであろう。そのような荒波に立ち向かうことになった場合、センター教員が中心に行なう教育は防波堤の役割を果たすかも知れない。
上に挙げた教育の内、セミナーと社会人研修、サマースクールは、センター内の機器を用いて行なわれた。これらは、充実した計算機環境を構築しやすいというセンターの特殊性が活用されたものと言える。特にセミナーにおける実習は、各種ワークステーション・パソコン等により多様な
OS環境で行なうことができたが、日立製作所やキヤノン・スーパーコンピューティングS.I.との共同研究に基づく協力が不可欠であったことを謝辞として付け加える。