落雷によるネットワーク被害の予測

 

吉田 等明*1,小林 友和*2,沼田 徳重*2,上野 行秀*1

恒川 佳隆*2,三浦 守*2

 

*1岩手大学情報処理センター

020-8550 岩手県盛岡市上田3丁目18−8

吉田 等明

TEL019-621-6095(Fax兼用)

hitoaki@iwate-u.ac.jp

 

*2岩手大学工学部情報工学科

020-0066 岩手県盛岡市上田4丁目3−5

三浦 守

TEL019-629-2838(Fax兼用)

mamoru@cis.iwate-u.ac.jp

 

 

概要

 

 雷害は積乱雲(雷雲)からの放電、電撃による災害であり、電力や通信のシステムに重大な被害を及ぼすことがある。岩手大学内のコンピュータネットワークシステムにおいても,落雷によりトランシーバが破壊されるなどの被害が生じている.本論は,ニューラルネットワークを用いて気象データから落雷被害予測を行い,少ない入力パラメータで被害の予測が可能であることを示す.

 

 

キーワード

 

 落雷被害、ニューラルネットワーク、コンピュータネットワーク、地電流

 

 

 

 

 

Prediction of Lightning Damage

 

Hitoaki Yoshida*1, Tomokazu Kobayashi*2, Norishige Numata*2, Yukihide Uwano*1,

Yoshitaka Tsunekawa*2, and Mamoru Miura*2

 

*1Iwate University Computer Center

3-18-8 Ueda Morioka Iwate 020-8550 Japan

Hitoaki Yoshida, TEL & FAX019-621-6095

hitoaki@iwate-u.ac.jp

 

*2Iwate University Department of Engineering Facility of Computer and Information Science

4-3-5 Ueda Morioka Iwate 020-0066 Japan

Mamoru Miura, TEL & FAX019-629-2838

mamoru@cis.iwate-u.ac.jp

 

 

Abstract

 

 Sometimes, an occurrence of lightning brings serious damage in electric power systems or communication systems. In fact, several transceivers using in computer network system of Iwate University were destroyed by the occurrence of lightning. This report describes that the lightning damage is successfully predicted by using artificial neural networks on the basis of weather data.

 

 

Keywords

 

lightning damage, neural network, computer network, telluric current

 

 

1.はじめに

 

 雷害は積乱雲(雷雲)からの放電、電撃による災害で、被害対象物には人的(死傷)、建物(損壊、火災)、電力(施設損壊、停電)、通信(施設損壊、通信途絶・妨害)、交通(運行支障、航空機などの損壊)、農作物、林野火災などがある[1]。これらの災害を防ぐため、企業や大学で様々な研究がなされているが、雷雲の正確なメカニズムはまだ明らかにされていない。岩手大学内のコンピュータネットワークシステムにおいても、落雷により被害を生じている。本研究は、この被害が地電流によるものと推測し、地電流測定データと気象データを用いて落雷被害を予測し、学内のネットワークを保護する事を目的とする。今回は、その予備実験として、ニューラルネットワーク(以下、NNと略す)を用いて、気象データだけから落雷の予測と落雷被害の予測を行った結果を報告する。

 

 

2.岩手大学のネットワーク構成と落雷被害の状況

 

 岩手大学では平成53月にキャンパス情報ネットワークを導入し、平成83月にATMネットワークを導入した。新しいネットワークは光ファイバーを用いており、地電流対策としても有効であるが、平成5年に導入したネットワークは銅線を用いているため地電流の被害にあっている。

 被害状況としては、トランシーバが破壊された事が平成6年以降4回報告されており、地中に埋設した配線は、ビニール製のパイプかコンクリート製の共同溝の中を通している。ビニール製のパイプの中を通している場所だけが被害を受けているが、必ずしもビニール製パイプを用いている全ての場所で被害が起こっている訳ではない。

 

 

3.落雷と気象データの収集

 

 落雷があった日の気象データの例(平成6年8月18日16時頃)を図1に示す。これは、盛岡地方気象台で観測したデータであり、同図の縦軸は各パラメータの変化量を -1.0+1.0に基準化して示している。

図1.落雷のあった日の気象データの例

 

 

4.雷の原理

 

 

4.1 雷雲の発生原理

 

 雷雨を発生させる積乱雲は、激しい上昇気流によってしめった空気の塊が持ち上げられ、その中の水蒸気が凝結したり昇華したりしてつくられる。

 雷は、上昇気流の発生原因の違いによって、熱雷・界雷・渦雷に分類される。熱雷は大気の不安定な状況下で発生し、夏季の小笠原気団などの気団内で起きるため気団雷ともよぶ。地表付近の湿潤な空気が夏季の強い日射によって熱せられたり、上空に冷たい空気が入ってくることにより生じる不安定によって起きる。温暖な気団と寒冷な気団が接する前線付近で発生する雷を界雷または前線雷という。発達した低気圧の中心や台風にともなって発生する雷を渦雷または低気圧雷ともよぶ。いずれの雷も発達した積乱雲から発生し、大雨を伴うことが多い。

 実際の雷は、上にあげた3つの要因が重なって発生する場合が多い[2]

 

4.2 電荷の発生分離機構

 

 雲が電気を帯びて雷雲になる原因にはいくつかの学説があるが、結局、水蒸気が上昇気流によって上空で雹や霰となり、摩擦・衝突・分離などによって、プラスかマイナスの極性をもった粒子がたくさん集まって雲を形成する[3]。普通、互いに異なる物体をこすり合わせると摩擦電気ができるが、雷雲は、同じ氷同士がこすり合わさって、プラス、マイナスができる。この原因は、氷の表面の結晶の状態や、氷の温度に関係があるらしい。氷の粒のうち、細かい氷晶はプラスに帯電して上層部に、氷晶より大きい氷、霰は、マイナスに帯電して下層部に分布する(図2)。すなわち、雷放電の元になる静電気は、氷点下以下の温度領域で生成される[4]

2.雷放電の種類[3]

 

 

5.落雷被害予測システムの構成

 

 

5.1 ニューロンモデルと落雷被害予測システムの全体構成

 

 使用したニューロンモデルを図3に示す。図4は落雷被害予測システムの全体構成であり、落雷予測用NNと落雷被害予測用NNの2つの階層型NNから成る。これらのNNは、いずれもバックプロパゲーション法により学習を行う。今回は、気象データを用いて、どのような構成のNNが予測システムとして適しているのかを確かめるため、表1に示す4種のNN構成について検討した。NN1〜NN3が落雷予測用NNであり、NN4が落雷被害予測用NNである。

図3.ニューロンモデル

図4.落雷被害予測システム

 

 

5.2 落雷予測用NNと落雷被害予測用NN

 

 落雷予測をするためには、どのような気象条件を入力パラメータとして用いたらよいのか調べるため、3つのNNを用いた(表1)。入力値は、雷発生の直前2時間分の気象データとその変化量をそれぞれ ?1.0+1.0に基準化したものを用い、風向は2進数4bitで表される00001111の値を北から時計回りにそれぞれ16方位に割り当てた。時刻の与え方はなめらかな周期変化となるようにsin関数を用いて基準化した。

 NN2の入力パラメータは、NN1の入力パラメータから風向を除いたものであり、NN3の入力パラメータは、更に気温と湿度を除いたものである。

 落雷被害の予測用NN(NN4)は、入力パラメータとして風向と湿度を用いている。風向は落雷被害のあった日の風向の統計をとり、全体に対するそれぞれの風向の割合を ?1.0+1.0に基準化したものを用い、湿度はNN1及びNN2と同様に与える。

表1.NN構成

 

6.結果及び考察

 

 

6.1 落雷の予測結果

 

 NNの学習時、結合荷重の初期設定はランダムな値を与え、収束後または10,000回の学習後の結合荷重を用いて認識させた。表2に、落雷ありと落雷なしの認識データ(各々8データ)に対して、それぞれ20回認識させた場合の平均正答率を示す。

表2.NN1〜NN3を用いた落雷の予測結果

 

 入力パラメータ数が一番多いNN1の場合と入力パラメータ数がそれより少ないNN2及びNN3の場合とを比較すると、入力パラメータ数が少ない方が正答率は向上していることがわかる。これは、多くの気象条件を入力パラメータとして用いると1つ1つの雷の特徴をとらえすぎるため、あらゆる雷について予測するためには、気圧、風速及び時刻のような特徴が表れやすい気象条件を用いた方が良い結果を与えると考えられる。

 

 

6.2 落雷被害の予測結果

 

 表3に、各々のデータに対して落雷被害の判定を20回行った時の正答率を示す。落雷被害ありのデータ数が少ないため、4つのデータのうち3つを学習データとして用いている。

表3.NN4を用いた落雷被害の予測結果

 

 4回の落雷被害のうち、3回は予測可能であった(正答率75%)。データ番号9の場合は予測に失敗しているが、この場合の気象データを見ると湿度の変化がほとんどないことから特別な例と推測される。

 

 

7.結び

 

 研究の第1段階として、気象条件と落雷の発生についてニューラルネットワークを用いた予測を行った。その結果、気圧、風速、時刻を用いたNN(NN3)の場合72%という高い確率で落雷を予測できることが明らかとなった。また、雷が発生する1〜2時間前に落雷予測が可能であり、この段階で、落雷被害の有無を判定させ、使用中のコンピュータ・システムをシャットダウンさせるなどの処置を講じることにより、被害を最小限にくい止めることが可能と思われる。落雷被害についても、75%という高い確率で予想ができた。

 今後は、さらに局地データなどを加味して、落雷被害の起こる場所も予測可能なシステムの完成を目指す予定である。その際、地電流データを測定してこの目的に応用することを計画している。

 

参考文献

 

[1]気象ハンドブック編集委員会(): "気象ハンドブック", 朝倉書店, pp.111-112, 543, 1979

[2]NHK放送文化研究所(): "NHK気象ハンドブック", 日本放送出版協会, pp.102-105, 1995

[3]饗庭 貢: "雷の科学", コロナ社, pp.12-15, 1990

[4]速水 敏幸: "謎だらけ・雷の科学", 講談社, pp.60-67, 1996